[運動と栄養]シリーズ③

シリーズ②でご紹介した寝たきりや要介護のリスクが高くなる“ロコモティブシンドローム”。この原因の一つとして問題視されているのが“サルコペニア”と呼ばれる、筋肉の衰弱です。最近よく耳にする婚活ならぬ“筋活”という言葉がありますが、実はその“筋活”、かっこいい体型づくりの筋肉トレーニングとして終わらせてはもったいないのです。サルコペニアを知り、積極的に将来の自分のための“貯筋”をしましょう!


●サルコペニアの原因と診断基準

サルコペニアは、主に加齢によって生じる骨格筋量と骨格筋力の低下のことを表しており、ギリシャ語で「サルコ」は“筋肉”を、「ペニア」は“喪失”を意味しています。サルコペニアはこの二つを合わせた造語です。高齢者に多く見られる状態であるため、「加齢性筋肉減弱現象」ともいわれています。
サルコペニアは、原因により以下のように分類されます(※1)。

【一次性サルコペニア】
加齢性サルコペニア…加齢以外に明らかな原因がないもの
【二次性サルコペニア】
活動に関連するサルコペニア…寝たきり、不活発な生活スタイル、無重力状態が原因となり得るもの
疾患に関連するサルコペニア…重症臓器不全(心臓・肺・肝臓・腎臓・脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌系疾患に付随するもの
栄養に関連するサルコペニア…吸収不良、消化不良、および食欲不振を起こす薬剤使用などに伴う、摂取エネルギーまたはタンパク質の摂取不足に起因するもの

また、サルコペニアの診断(※2)は、握力(筋力の測定)と歩行速度、筋肉量の測定値によって診断されます。
握力
男性:26kg未満  女性:18kg未満
歩行速度
男性:0.8m/秒   女性:0.8m/秒(通常の6mの歩行速度)
筋肉量
(DEXA)男性:7kg/m²  女性:5.4kg/m² 、(BIA)男性:7kg/m²  女性:5.7kg/m²

握力と歩行速度において、上記の診断基準と年代別の平均値を比較してみると、75歳以上からサルコペニアの診断基準に近くなってくることがわかります(※3)。

握力
60~64歳 男性:35.7kg 女性:22.7kg         75~84歳 男性:27kg  女性:17.8kg
歩行速度
60~64歳 男性:1.02m/秒 女性1.07m/秒   75~84歳 男性:0.84m/秒 女性0.79m/秒

筋肉量は専用の医療機器によって測定されます。2重エネルギーX線吸収法(DEXA)は骨密度の測定にも用いられる、微量の放射線が使われる測定器です。また、生体インピーダンス法(BIA)は家庭用の体組成計機能が付いた体重計と同様の原理によって測定されます。原理は同じですが、家庭用の体重計はメーカーごとで独自の基準が設定されているため、上記の診断基準には当てはまりません。ご家庭の体重計は、あくまでも増減の目安として捉えた方がよいでしょう。
また、簡易な診断方法として、ふくらはぎの太さで測る「指輪っか」テストがあります(※4)。

【指輪っかテスト】
①両手の親指と人差し指をそれぞれ合わせて輪っかを作る
②自分のふくらはぎの一番太いところに①の輪っかをはめる
③輪っかでふくらはぎを囲いきれなかったらサルコペニアの可能性は低く、反対に輪っかに隙間ができるようであれば、サルコペニアの可能性が高い。

●サルコペニアの予防法

サルコペニアの予防として最も重要となるのは運動と栄養の組み合わせです。どちらが欠いても予防にはなりません。年齢や病気の有無、生活環境などによって安全に行える運動や食事の量がひとり一人で異なってきますが、まずは予防として何が効果的なのかを知っておきましょう。
【運動編】
サルコペニアの予防策としては、下記の二種類の運動が効果的とされています。
レジスタンス運動…筋肉に抵抗をかけて動作を繰り返し行う運動。いわゆる筋トレ。下肢や体幹が鍛え  られる。毎日ではなく、2、3日に一度、週に2、3回といったペースで行う。
例)つま先立ち・スクワット・腕立て伏せ・ダンベル体操
有酸素運動…最も気軽に始めやすく、日常生活の中にも取り入れやすいウオーキング。歩幅をいつもより大きくして歩く、速度をあげて歩く、毎日10分だけでも歩くなど、運動習慣を身につけるための効果もある

【栄養編】
「栄養・食事がサルコぺニア発症を予防・抑制できるか?」
サルコペニアを食事で予防できるという報告もいろいろあります。例えば、高齢女性(554人、平均年齢68.19歳)を対象とした 食事記録から総タンパク質摂取で四分位に群分けし、 除脂肪量との関連を分析した研究では、タンパク質摂取の多い群で除脂肪量が高値だったという報告があります。(Isanejad. M, et al, 2015)
つまり、適切な栄養摂取、特に1日(適性体重)1kgあたり1.0g以上の タンパク質摂取はサルコペニの発症予防に有効である。と言えます。

さて、筋肉の8割を占めているのが皆さんご存じのタンパク質。中でも必須アミノ酸であるBCAA(分岐鎖アミノ酸)と、特にその中のロイシンという成分がサルコペニアの予防に期待できるとして注目されています。

BCAA・ロイシンについてはオンライン講座で確認しましょう。

BCAAはバリン・ロイシン・イソロイシンの3種類からなり、いずれも筋肉に関わる成分で筋肉に取り込まれ、成長促進と維持に働き、筋肉のエネルギー源として作用します。その中でもロイシンが、筋肉を作り出すために重要な役割を果たしており、BCAAやロイシンをはじめ、必須アミノ酸を多く含んだ食品を摂取することが、サルコペニアの予防の鍵となることがわかってきています。

BCAAを多く含む食品…まぐろ、かつお、鶏胸肉など
ロイシンを多く含む食品…まぐろ、鶏胸肉、サンマなど
参考 独立行政法人 環境再生保全機構HPより

【運動とアミノ酸の摂取の関係】
運動+アミノ酸 > 運動 > アミノ酸 >対照 運動トレーニングとアミノ酸摂取によって、筋機能や運動機能が改善したとの報告があります。


筋量と筋力が共に改善する割合は、アミノ酸摂取により2倍に、運動により2.6倍に、さらに運動とアミノ酸摂取を両方行うことで、4.9倍に増加した。つまりアミノ酸摂取のサルコぺニア対策における意義・効果を認めた報告です。
(Kim, Suzuki et al. J Am Geriatr Soc 2012)


加齢に伴って筋肉が減少するとはいえ、運動や栄養によって高齢になっても筋力を保っている方も多くみられます。逆にサルコペニアと診断されるような状態になってしまうと、QOL(生活の質)の低下をもたらします。そんなことにならないように、運動と栄養を意識しながら筋肉を蓄える、“貯筋”に励みましょう!
[運動と栄養]シリーズの次回は、ロコモやサルコペニアに陥る背景となる「フレイル」について掘り下げます。

(※1)
定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサス ―高齢者のサルコペニアに関する欧州ワーキンググループの報告―の監訳 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者における加齢性筋肉減弱現象 (サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究 研究班より引用

(※2)
欧州のサルコペニアのワーキンググループ(EWGSOP)によって提唱された診断基準がベースとなっているが、欧米人とアジア人とでは体格の違いがあるため、日本ではアジアのワーキンググループ(AWGS)によって作成された基準での診断が推奨されている。(サルコペニア診療ガイドライン2017年版より)

(※3)
地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所
「長寿社会における暮らし方の調査」2012年調査の結果報告より

(※4)
指輪っかテストは、東京大学高齢社会総合研究機構が実施した大規模高齢者フレイル予防研究「柏スタディ」(千葉県柏市)をもとに考案されたテスト方法。

《参考》
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 老年学・科学研究センター
サルコペニア診療ガイドライン2017年版
http://www.ncgg.go.jp/cgss/news/20180117.html

公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/index.html

アクティブシニア「食と栄養」研究会
https://activesenior-f-and-n.com/sarcopenia/

味の素株式会社ホームページ アミノ酸大百科
https://www.ajinomoto.co.jp/amino/himitsu/koureisha.html