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シリーズ②と③でご紹介した、寝たきりや介護が必要な状態に陥る原因ともなるロコモティブシンドロームやサルコペニア。
どちらも主に加齢に伴う体の衰えによるものですが、そこに至る背景には、同居家族の有無や社会とのつながりなど、個人個人の生活環境が大きく関係しています。
今回はそれら二つを含めた、老年期の状況を包括的に捉えた“フレイル”という概念を理解し、元気な老後を過ごすためのヒントを探ります。


●単なる「歳のせい…」と見過ごさないで!

歳をとると、足腰が弱くなったことを理由に外出しなくなったり、これまでできていた家事などの日常的な動作さえも不便を感じるようになったりします。「これは歳のせい…」とばかりに日々やり過ごしていたら、家族が気づいた時には既に要介護状態に陥っていた、といったケースも少なくはないのが現状です。
周知のとおり、日本では2040年までは65歳以上の人口が右肩上がりに増え続けますが、65歳から74歳までの人口は2020年には減少し始めます。しかし75歳以上の人口においては、2025年まで増加し続けた後、横ばいとなります。これは、高齢者の中でも75歳以上の後期高齢者の人口だけが顕著に増加していくことを意味しています。
その後期高齢者において特に懸念されているのが、“虚弱”という状態です。加齢によって様々な体の機能が衰え、日常起こり得る感染症やケガなどが
きっかけとなり、介護が必要な状態に陥りやすくなります。ロコモティブシンドロームやサルコペニアといった身体面の衰弱だけではなく、認知症やうつなどの精神・心理的な問題、独居や貧困などの社会的な側面も問題も相まって、健常な状態から要介護状態に徐々に移行していく間の状態のことを “フレイル”と言います。

“フレイル”は、それまで「歳のせい…」で済まされていた高齢者の脆弱性を客観的に捉え、医療関係の専門職に限らず一般にも広く知らせることで介護予防につなげようと、2014年に日本老年医学会によって提唱された概念なのです。

*フレイルとは、海外の老年医学の分野で使用されている「Frailty(フレイルティ)」の意味
加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、生活機能が障害され、心身の脆弱性( Frailty)が出現した状態。高齢者においては特にフレイルが発症しやすい。一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像でもある。


※厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)総括研究報告書 後期高齢者の保健事業のあり方に関する研究
図-3 フレイル、ロコモ、サルコの関係性(概念図)より引用

●“フレイル”に気づけば危機回避できる

上図からもわかるように、後期高齢者の身体面、精神・心理面、社会性といった様々な側面
における機能の衰えが、フレイルという状態を作り上げてしまいます。近年は単身または夫婦のみの世帯が多くなっており、歳を重ねるうちに社会とのつながりが途絶え、家に閉じこもりがちになり、活動意欲が低下してしまうのです。こうした体と心の機能の衰えは、日々の食事を作る気力や能力を失わせるため、必然的に低栄養となり、フレイルがより進行していきます。

フレイルに陥ってしまうと、人としての寿命、また健康寿命も短くなることがわかっています。とはいえ、一度フレイルの状態になってしまったからといって諦める必要はありません。そのような状態に早く気づき適切な対応ができれば、そのまま要介護になってしまうような状態を食い止めたり、今まで以上の健康を取り戻したりすることも可能です。
そのため、少しでも多くの人がフレイルという概念を認識し、身近な高齢の方たちを気にかけてあげることが、要介護状態の高齢者を減らすことにもつながります。

フレイルの主な要因
加齢に伴う活動量の低下と社会交流機会の減少
身体機能の低下(歩行スピードの低下)
筋力の低下
認知機能の低下
易疲労性(すぐに疲れてしまう)や活力の低下
慢性的な管理が必要な疾患(呼吸器病、心血管疾患、抑うつ症状、貧血)
体重減少
低栄養
収入・教育歴・家族構成など

●栄養・運動・コミュニケーションの三本柱でフレイル脱出!

ロコモやサルコペニアと同様、フレイルの予防や改善に役立つのは、やはり栄養と運動です。
加齢と共に食が細くなりがちのため、1日に必要なエネルギー量、栄養素量を意識して摂ることが必要になります。70歳以上の日本人の食事摂取基準をみると、個人個人の身体活動レベルによって摂取カロリーが異なりますが、下記のようになります。(※1 厚生労働省策定、日本人の食事摂取基準2015より)。
1日に摂取する総カロリーが基準より少なくならないようにすることも大事ですが、食事内容としては特にタンパク質の摂取量にも気を配る必要があります。18歳以上のタンパク質摂取の推奨量は男性60g/日、女性50g/日となっており、これは70歳以上でも変わらず、同じ量が必要とされています
(※2厚生労働省策定、日本人の食事摂取基準2015より)。

[推定エネルギー必要量(kcal/日)]※1
身体活動レベルⅠ(低い) 男性 1850kcal   女性 1500kcal
身体活動レベルⅡ(普通)   男性 2200kcal     女性 1750kcal
身体活動レベルⅢ(高い) 男性 2500kcal     女性 2000kcal

[タンパク質必要量(g/日)]※2
男性 60g
女性 50g

食事は五大栄養素をバランスよく摂ることが大事ではありますが、後期高齢者の中には、食べ物を咀嚼する力や嚥下の機能が衰え、それが原因となって食欲の低下を促進させてしまう“オーラル・フレイル”といった状態の方もいます。既にそのような状態の場合には、体に必要な栄養が強化されたドリンクやゼリーなどの栄養補助食品や、栄養や食べやすさが考慮された高齢者用の宅配弁当などのサービスを利用することで対応できるでしょう。

さらに、日々摂取しなければならない栄養が確保できれば、同時に運動を行う必要があります。運動といっても、個人の状態に合わせて無理のないように行わなければなりませんが、もちろんハードなトレーニングではなく、軽いウオーキングといった有酸素運動や家の中でできる筋力トレーニングなどを生活習慣として取り入れるとよいでしょう。運動が苦手な場合でも、地域のレクリエーションに参加したり、近所に買い物に行ったりと、何か用事を見つけて外出する機会をつくることが大切です。外出で歩くこと自体が運動になるからです。
また、他者とのコミュニケーションは閉じこもりを予防し、閉じこもりの予防はフレイルの予防に繋がると言われています。地域のサービスや情報を利用して、積極的に食事や運動の指導を受けることもおすすめします。

セルフケアのためのフレイル対策
1、運動(レジスタンス運動)
*レジスタンス運動とは、筋に負荷をかけたトレーニングなど筋力をつける運動のこと。
筋トレというとハードなイメージを持ちがちですが、高齢者の方は、ちょっとした自宅できるストレッチや膝をついた腕立て伏せ、スクワット、あるいは階段を積極的に使うなどといった、自宅でも簡単にできる運動で十分です。家事の合間や電車での移動中など隙間時間で行うことができます。
2、タンパク質、ロイシンを含む必須アミノ酸とカルシウム、ビタミンなどを積極的に摂る
筋肉をつけるための軽い運動と合わせてタンパク質(鶏肉や大豆など)やアミノ酸をしっかり摂るようにしましょう。その中でも、ロイシン、イソロイシン分岐鎖アミノ酸(BCAA)は筋肉に多く含まれている成分であり、特にロイシンはBCAAの中でも、特に筋たんぱく質を作り出しやすくする機能が強く、加齢に伴ってその必要量がだんだんに高まることも指摘されている重要なアミノ酸です。 牛乳などの乳製品、肉、魚、卵などのBCAAを多く含む良質の食品を普段から積極的に摂るように心がけるとともに、ロイシンなどのカラダが必要とする栄養成分なども効率的に利用することをおすすめします。

人生100年時代とも言われる昨今ですが、健康不安やお金の問題など、心配事がつきません。そんな不安を少しでも和らげるためには、何事においても早め早めの対策が必要です。体が元気なうちは意識しづらいことかもしれませんが、これまでご紹介してきた老後に起こりえる体の衰えや病態を理解して、身近な高齢の方の状態に気を配ってあげたり、ご自身でも予防策を毎日の生活に根付かせたりすることができれば、少しでも将来の不安が解消されるのではないでしょうか。


《参考》
総務省統計局
https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1131.html

一般社団法人 日本老年医学会
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf

厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201504009A

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
http://www.ncgg.go.jp/cgss/organization/documents/20160630kennkoutyoujutext.pdf