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免疫と腸内細菌

免疫力を高めたり、調節したりする物質を生物反応修飾物質(Biological Response Modifiers BRM)と言います。

もちろん、免疫力を高めるためには、栄養素(現代では特にミネラル、ビタミン、アミノ酸、)も必要なのですが、免疫細胞を刺激するには身体にとってある程度、異物でなければ免疫反応が刺激されないことも知られています。

現在、免疫増強作用があると言われる物質が世の中にはたくさん出回っています。きのこ抽出物質、細菌由来の物質、漢方薬、植物(食物繊維)などいろいろあります。

これらはなぜ免疫力を高めるのでしょうか?

その正体は多糖体(糖がたくさん結びついている高分子構造、糖鎖とも言う)です。
きのこや細菌由来の物質は多糖体でできています。これらは高分子の多糖体で一部にタンパク質が付いているムコ多糖体やリン脂質や脂質と結びついているリポ多糖体などがあります。また、多糖体ならなんでもいいというわけではなく砂糖のような低分子の物は体内に吸収されて一体化してしまうので、高分子の多糖体でなければ異物とならないのです。


■■ 多糖体 (グルコポリサッカライド・EPS・糖鎖) ■■

自然治癒力の主役である免疫(免疫の仕組み)は、NK細胞のような「自然免疫系」と、T細胞やB細胞のような「獲得免疫系(獲得免疫系には液性免疫、細胞性免疫の二つがある)」の協働連携によって成り立っています。
このなかで、近年、世界中で脚光を浴びている重要な生体反応の一つが自然免疫です。

自然免疫とはマクロファージや好中球などの貪食細胞や抗菌ペプチド産生を中心とした生体防御機構です。
この主役を担うのが多糖体(糖鎖)です。例えば、細菌の細胞壁ペプチドグリカンやリポ多糖体などの細菌複合糖質の免疫増強作用は古くから知られていましたが、近年、それらの作用は自然免疫と呼ばれる防御機構によることが明らかになり、アレルギー、癌、自己免疫疾患、動物と微生物の共生などの生命現象に関わることが示され注目を集めています。

そしてこれらのペプチドグリカン(細胞壁の主成分であり、ムラミン酸とグルコサミンがβ(1,4)結合したグリカン鎖がペプチド鎖によって架橋された強固な構造。)やリポ多糖体の部分構造であるムラミルジペプチド(MDP)リピドA がそれぞれ活性の本体であることが明らかにされました。

リポ多糖体はグラム陰性菌の細胞表層を形成する複合糖質であり細菌内毒素として広く知られおり、リポ多糖体の活性発現機構や実際の生体防御におけるリポ多糖体の免疫増強作用の役割が明らかにされてきました。しかし、現在多糖体がどのように免疫の機能を高めるのか作用機構は解明されていません。

自然免疫は生体防御に必須であり、獲得免疫の活性化にも重要で、アレルギーや自己免疫疾患などにも深く関連していることから、その機構の解明は重要性を増しています。

では、この高分子の多糖体を、抽出した医薬品ではなく、食品で摂るにはどのようにすれば良いかということになります。特にリポ多糖体をたくさん摂れば良い、つまり平和的に共存している腸内細菌(グラム陽性菌)が好都合なのです。

腸内細菌といえば周知のように乳酸菌です。乳酸菌には多糖体を産生(菌の代謝の結果の産物)する株もあります。
また、細胞膜や細胞壁などが多糖体であることなどから、免疫機構を活性化する働きがあるため現在注目されているのです。

乳酸菌と免疫の関係は公益社団法人日本農芸化学会の研究報告も参考になります。

https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=461


■■ 腸内細菌の不思議 ■■

細菌の種類によっては、腸内に入れば免疫システムはそれを異物として排除しようとするが、一方で、腸内に100兆個もの細菌が共生状態を作って住んでいる。つまり腸の中では人間と共生していますが、他の臓器に入れば病気になります(大腸菌も膀胱に入れば膀胱炎を起こします)。

人間の血清や腸内分泌物を調べてみると、ある種の腸内細菌に対しては抗体ができます。例えば、ある種の菌が外部から侵入し小腸粘膜内に定着すると、やがて宿主である人間の体内で抗体が作られ、この抗体が腸管の中に排泄され、この抗体の働きによって、その菌の増殖はおさえられ、結果的に体外に送り出されてしまいます。しかし、この一連の反応の中でも、腸内のもともと存在していた固有菌は生き残っていきます。それは腸内の固有菌は、宿主である人間の腸粘膜や粘液と共通の抗原を持っていると言われています。つまり、腸内固有菌の表面にある抗原は、宿主の免疫系によっても異物と認識できないほど、宿主の抗原とよく類似したもの(特にビフィズス菌などの乳酸菌のもつ抗体(菌が獲得した抵抗性)が宿主である人間の腸の粘膜に在る抗体と非常に良く似ている。)を持っているからなのです。
そのため腸内細菌は体外に排泄されることがないということになります。

一方、腸内では細菌が生きているわけですから、そこでもエネルギー代謝が行われるわけで、宿主が摂取した食餌に含まれる栄養分や腸の分泌物を主な栄養源として発酵することで増殖し、同時にさまざまな代謝物を産生します。ビフィズス菌などの腸内細菌は、ビタミンB群(B1、B2、B6、B12)、ビオチン、ビタミンK、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸などを産生したり、栄養学的に様々な有用成分を作り出していることが解かってきています。また、宿主の腸が分泌物を摂取してアミノ酸などの身体に有用なものに変える菌もいます。このように、腸内細菌は、互いに共生しているだけでなく、宿主である人間と密接な共生関係を築いています。

ただ、最も注目すべきなのは、腸内細菌の死骸は、糞便として体外に排出されます。“生きている”乳酸菌類(乳酸菌のどの部分)が人間の免疫の向上に役立っているとはなかなか解明できませんが、そのほとんどが“胃で死んでしまう”となれば、乳酸菌類、特にビフィズス菌などが、免疫や健康維持に有効な働きを持つのはなぜなのか、これが問題になってくるわけです。そこで、注目されたのが、菌の死体です。正確に言えば、その細胞を包んでいる細胞膜がカギではないかということになったのです。そして細胞膜を構成しているのは多糖体なのです。


■■ 腸内細菌の役割について解明されてきたこと(腸脳相関) ■■

腸の重要な働きが次第に解明され、脳に存在しているはずの神経伝達物質「セロトニン」が腸にも存在する事が解かり、さらに体内のセロトニンの95%が腸で作られていると解かったため、腸は第二の脳とまで言われるようになりました。
今では、老人と赤ちゃんの腸内細菌バランス(腸内フローラ)にはあきらかな違いがあり、腸内の悪玉菌(有害菌・腐敗細菌)がつくる毒素によって老化が進むことや「乳酸菌には腸内細菌のバランスを回復する整腸作用に加えて免疫増強作用・発ガン抑制作用・コレステロール抑制作用等がある」などが次々と発表されています。これを腸脳相関といいます。

■免疫に大きく貢献する腸内細菌

人の腸に有害な異物が入ってきたとわかると、T細胞とマクロファージ(貪食細胞と呼ばれ、異物を取り込んで消化しほかの免疫細胞に異物の特徴などを知らせる役割を担っています)の働きでB細胞が増殖しIgA抗体産生細胞に分化し「IgA抗体」を産生します。 IgA抗体とは病原菌やウイルスを攻撃したり病原菌がつくりだす毒素を無毒化するタンパク質のことです。つまりIgA抗体の産生が活発に行われれば体はかなりの安全性が約束されるというわけです。
ここで注目されるのが乳酸菌などの働きです。乳酸菌のある株にはIgA抗体の産生を活発にする作用があるのです。異物を取り込むマクロファージは乳酸菌もまた異物として取り込み、同時に取り込まれた病原体に対するIgA抗体の産生を促します。
このとき乳酸菌自身に対するIgA抗体はつくられないので乳酸菌を攻撃することはありません。乳酸菌を常に摂取していると、摂取していないときに比べて、病原菌を攻撃するIgA抗体の産生量がずっと多くなることが解かってきました。

■腸内細菌と免疫・アレルギーの密接な関係

腸管には100兆個もの微生物が生息していると言われます。そしてその重量は1kgに達するそうです。これら微生物群は腸管免疫系を刺激し、その免疫的環境を左右しています。
最近になり、腸内細菌が免疫系におよぼす影響について多くのことが明らかになってきました。たとえば腸内細菌の生息しない無菌マウスでは、IgAの産生が低く、同様に無菌マウスでは経口免疫寛容が誘導されません。すなわち腸内細菌は、このような腸内免疫系の重要な2つ(IgAの産生、免疫寛容)の特徴的な機能になくてはならないのです。また、細菌、抗原の種類によって誘導されるT細胞の種類が異なることが明らかとなっています。

■腸内細菌に対する抗体が、自己免疫の原因になっている

免疫の老化とは主としてT細胞自体の老化だと言えますが、もう一つは、自己免疫が増えるという現象も生じます。自己免疫疾患というのは、自分の身体を抗原と見なして攻撃してしまう病気です。(慢性関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、慢性の甲状腺機能低下症である橋本病などが知られています)
これらの自己免疫は、思春期過ぎや年をとってから出てくるものが多いといわれます。つまり、年をとると自然抗体というものが増加します。これは、恐らくある種の腸内細菌の多糖体(糖鎖)に対する抗体だろうと言われています。何が原因かはよくわかっていませんが、老化とともにこの抗体が増えてくるのは確かです。これが、先程も言った自己免疫に関係しているのかもしれないと考える研究者もいます。また動脈硬化もある種の自己免疫が原因のひとつだと考えられてきています。

腸管免疫が感染症防御の中心をなすだけでなく、免疫寛容や食品アレルギーの改善にも重要な役割を果たしていることが近年解かってきた。腸年齢の若さに比例して、肌や脳も若い傾向があるという調査結果もあり、腸の健康がアンチエイジングに大きく影響することが分かってきました。
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学教室の吉川敏一教授の研究で「腸内には様々な腸内細菌が共生し,発酵によって多様な代謝物を作り出している。その中には、体にいいものも悪いものもあるが、それらがシグナルとなって全身の健康に影響している」ことが最近分かってきました。

■腸内細菌とアンチエイジング

腸内細菌にも関係のある、腸のアンチエイジングに必要な成分として最近注目されているのが、短鎖脂肪酸の一種である「酪酸」と抗炎症物質である「ポリアミン」です。
酪酸は、難消化性でんぷんなどを原料に腸内の善玉菌が作り出す成分で、その働きは「腸の細胞のエネルギー源となり腸が元気になること」。腸内の細胞や粘膜を再生(ターンオーバー)・修復したり、ぜん動運動をサポートしたり、また炎症を抑えたりして,大腸の健康を支えています。
腸内細菌が酪酸を作り出す比率が高い食材は、難消化性でんぷんのほか、でんぷん、オート麦などが知られています。

ポリアミンは、すべての生物の細胞内で合成される物質で、細胞の増殖や分化に関わっています。ヒトの代表的なポリアミンは、スペルミン,スペルミジン,プトレシンと呼ばれる物質です。納豆やチーズなどの発酵食品や大豆、シイタケ等に豊富に含まれ、食物から摂取したポリアミンは,消化管内でそのままの形でほぼ吸収され,体内の臓器や組織に移行します。
また,腸内細菌によって産生されることも知られています。
腸内のポリアミンが増えれば、腸内の細胞が再生・増殖し、バリア機能が高まるため、その補給は腸のアンチエイジングにつながります。中でも、ポリアミンの一種であるスペルミンは抗炎症作用が強く、高いアンチエイジング効果が期待できると注目されています。
また腸が、様々な消化管ホルモンを分泌し、インスリン抵抗性をコントロールすることも最近注目を集めており、肌や寿命だけでなく、糖尿病やメタボリック・シンドロームとの関連も指摘されています。腸の健康や機能強化が、今後のアンチエイジングの主要テーマとなると思われます。