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ボツリヌス症ってご存知ですか?

ボツリヌス症はボツリヌス菌という細菌が作るボツリヌス毒素によって起きる病気です。特に食中毒に関連して発症するのがボツリヌス症です。ボツリヌス毒素は神経麻痺を引き起こします。そのため、発症すると体のさまざまな部位に麻痺症状が現れます。今回はこのボツリヌス症について知識を深めましょう。

どんな症状なの?

このボツリヌス毒素の働きで麻痺(まひ)症状が引き起こされます。
ボツリヌス菌は、酸素があると増えることのできない偏性嫌気性菌(へんせいけんきせいきん)の仲間です。この菌は芽胞(がほう)という「固い殻に閉じこもった種子のようなかたち」では、熱、乾燥、消毒薬等に強い状態になり、厳しい環境でも長く生き延びます。ただし、芽胞のかたちのままで、増えることはできません。

菌の芽胞は、土壌などに広く認められるため、材料の果物、野菜、肉、魚などとともに食品に混入することがあります。
芽胞は熱に強いため、100度で長時間調理しても死滅させることができません。ボツリヌス菌は酸素のない状態でしか増えることができないので、芽胞が含まれた食品が、真空パック詰食品や缶詰、瓶詰め、発酵食品内などの「酸素の少ない状態」になると、食品内で芽胞が発芽し、ボツリヌス菌が増え、ボツリヌス毒素が作られます。そのボツリヌス毒素を食品とともに食べると、毒素が腸管で吸収され、ボツリヌス食中毒がひきおこされます。日本では、カラシレンコンのほか、ハヤシライスの具材や、あずきばっとう(ぜんざいにうどんが入った食品)等の真空パック詰食品による食中毒事例が報告されています。

ボツリヌス症は、食品中でボツリヌス菌が増えたときに産生されたボツリヌス毒素を食品とともに摂取したことにより発生するボツリヌス食中毒と、乳児に発生する乳児ボツリヌス症等に分類されます。

【ボツリヌス食中毒】
潜伏期間は、一般には8~36時間とされています。
初期症状としては、吐き気やおう吐、下痢等の消化器症状があります。次いで、特有の神経まひ症状がみられるようになります。
その多くは、めまい・頭痛を伴う全身の違和感や、視力低下・かすみ目等の眼症状で、これらと前後して口が渇く、飲み込みにくい等の咽喉部のまひが認められます。
更に病状が進行すると、腹部の膨満・便秘・尿閉(※2)・著しい脱力感・四肢のまひがみられるようになり、
重症の場合は呼吸困難に陥って死に至ることがあります。
(※2)尿閉:膀胱に尿がたまっているのに排尿できないことです。

【乳児ボツリヌス症】
潜伏期間は、明確になっていませんが、3~30日間と推定されています。
便秘で気づくことが多く(多くは3日以上持続)、脱力状態になる、ほ乳力が低下する、
泣き声が小さくなる等の症状が出ます。脳神経まひによる眼けん下垂、首や体幹部・上下肢等のまひや
筋肉の緊張の低下等が進み、横隔膜にまひが及ぶと人工呼吸器が必要となります。
2017年2月の症例では、離乳食として市販のジュースにハチミツを混ぜたものを飲んでいた生後5か月の乳児が発症し死亡しています。

どんな治療をするの?

【ボツリヌス食中毒】
ボツリヌス症の治療では、ボツリヌス毒素を中和することを目的とした抗血清療法が行われます。抗毒素療法と対症療法を行います。日本では、1962年に抗毒素療法が導入されて以降、致死率がそれまでの約30%から約4%に低下しています。
また、人工呼吸を含めた呼吸管理を行うことも必須です。ボツリヌス症の経過中に呼吸障害を来すと、呼吸不全から亡くなることがあるためです。

【乳児ボツリヌス症】
治療は対症療法です。呼吸管理等に伴う合併症がなければ予後は良好とされていますが、腸内で菌が増殖するため、回復後も数か月間は便とともに菌が排出されます。

予防するには?

ボツリヌス菌は土壌などに広く分布していることから、食品原材料そのものの汚染を完全に防止することは困難です。したがって、予防には、菌の性質を知って、
食品中での発芽・増殖を抑制することが重要です。ボツリヌス菌は、3℃未満又は水分活性(※3)0.94未満、又、高い酸性(<pH4.6)の環境では増殖や毒素の産生ができません。

1歳以上の小児および成人で、ボツリヌス症疑いがあると考えられた場合は、保健所が、発症前に「何を食べたのか」聞き取り調査をしますので(患者本人および同居されている方やご家族は)協力してください。同居している方は、真空パック詰食品、缶詰、瓶詰め等の「残り物」あるいは「食べ残し」がもし冷蔵庫や棚にあっても絶対に食べないようにしてください。また、その「残り物」あるいは「食べ残し」をすぐには捨てないでください。患者がボツリヌス症と診断された場合、保健所が調査をしますので、ボツリヌス食中毒の原因食品となりそうな食品の検査にご協力くださることをお願いします。その食品の検査の結果、ボツリヌス食中毒の原因となる食品が見つかれば、同じ場所で同じ時期に製造した食品を回収したり、既に購入して家庭にある食品を食べないように注意喚起をしたりすることで、続いてボツリヌス症の患者が出ないように予防できます。

【ボツリヌス食中毒の予防策】
野菜・果物等の原材料を十分に洗浄すること、冷蔵や冷凍で保存すること、発酵食品(保存食)や自家製瓶詰ではpHの調整を行うこと等です。ボツリヌス菌の芽胞には熱に非常に強いタイプがあり、加熱では死滅しないこともありますが、産生する毒素は熱にそれほど強くありません。
そのため、食べる前の十分な加熱は、ボツリヌス食中毒の予防に有効です(※4)。
120度、4分間以上の加熱を加えていない真空パック詰食品は、120度、4分間以上加熱加圧処理をしたレトルトパウチ食品と区別して、冷蔵保管をする必要があります。こうした食品を保管する際には、冷蔵が必要な真空パック詰食品なのか、常温保存ができるレトルトパウチ食品なのか、よく表示を確認する必要があります。また、缶詰や瓶詰、真空パック等では、膨らんでいたり異臭がしたりするものは食べないようにすることも重要です。酸素がない、あるいは極めて少ない状態となっており、日本では、里芋の缶詰やグリーンオリーブの瓶詰めが原因食品となって、食中毒が発生したこともあります。
このほか、自家製の「いずし類」(なれずしの一種で、米麹、魚、野菜を樽の中で漬け込み、乳酸発酵させたもの)などによる事例は、魚についていたボツリヌス菌芽胞が発酵食品のなかで増殖したことによります。ボツリヌス菌は増えるときに、大変くさいにおいがして、ガスを出します。食品のパックがふくらんでいたり、食品を開封したときに変なにおいがしたりしたら、絶対に食べてはいけません。85℃5分の加熱によりボツリヌス毒素は壊すことができますが、電子レンジでの加熱は有効ではありません。
(※3)水分活性(Aw):微生物が利用できる水が、食品中にどのくらい入っているかの
目安となる数値です。0~1で表され、水は1となります。
(※4)80℃で20分間、又は100℃で1~2分間の加熱で不活化されます。

【乳児ボツリヌス症の予防策】
1歳未満の乳児には、ボツリヌス菌に汚染されるおそれのあるハチミツやハチミツ入りの食品等を与えてはいけません。なお、1歳以上の方にとっては、ハチミツはリスクの高い食品ではありません。自家製野菜スープ、コーンシロップ、缶詰などが原因とされた事例もあります。また、同じ年代のお子さんがいる場合には、乳児ボツリヌス症を発症したお子さんのオムツの取り扱いにも注意が必要です。患者さんの便に芽胞が含まれている可能性があるのでオムツ交換をした後には、手洗いを徹底することも大切です。

≪参考≫
・国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/7275-botulinum-intro.html
・食品安全委員会「ファクトシート ボツリヌス症」(2018年2月13日更新)
http://www.fsc.go.jp/factsheets/index.data/factsheets_10botulism.pdf
・厚生労働省「ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html